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  • 目次

『グラフェィウスッ!?』

 大好きな。

『あなた、なんでっ……グラフェィウスッ、どうしてっ……』

 この世で一番大好きな声が、僕の名を呼ぶ。

『なんで“人間”の姿をしているのっ!?』
 
 ああ、これは……夢だ。
 成獣になったばかりの頃の……“あの時”の、夢だ。
 僕は“あの時”の夢をよく見る……。


******************************

 僕は、獅子だ。
 魔獣の、獅子。

 僕は獣だけど言葉も喋れるし、文字だって読める。
 歌も歌えるし、本も読めた。
 大好きなあの人と、何不自由なく一緒に暮らしていた。
 だから、自分が“人間じゃない”ってことを、気にしたことが無かった……あの時までは。


*******************************


 7年前。
 崖から“落とされ”、僕は死にかけていた時。
 たまたま森に薬草を採りにきていたイーレに助けられた。
 イーレは王に仕える魔女で、しかも世界で数名しかいない貴重な……生まれながらの、本物の<魔女>だった。
 幼獣だった僕は彼女に助けられ、生き延び。
 彼女に拾われ、育ててもらった。

 出会った時から変わらぬイーレの容姿は、少女のままだったけれど。
 彼女に抱きかかえられるほど小さく幼かった僕は、7年間で成長し、身体は彼女を背に乗せられるほど大きくなり、成獣になった。
 魔獣は人間より身体の成長が早い。
 外敵から生き延びるためだろうけれど……身体の成長に精神面が追いつかない。
 精神的にはまだまだ子供なせいか、僕は成獣になるとずっと抱いていた想いを彼女に告げた。
 ……僕は、自分の気持ちだけを優先し、イーレの気持ちを何も考えてなかった。

 --僕のつがいになって、イーレ!

 僕の求婚は。

 --え? ……あ、あたしとあなたは種族が違うから、無理なの。ごめんね、グラフェィウス。

 イーレは魔女だけど、人間の仲間で。
 僕は……獣だった。

 種族の違いを理由に、求婚を断られた。
 僕は……ほっとした。
 嫌いだから、が、理由じゃないことに。
 年下だからが、が、理由じゃないことに。

 だから、だから。
 僕は。
 僕は…………。


***********************


 種族の違いを理由に求婚を断られた僕だけど、諦めなかった。
 7年間、魔女のイーレと暮らしながら学んだ知識の中から最適だと思う方法を自分なりに探し出し、実行した。

 結果。
 その結果。

『イーレッ! 見てっ! 僕を見てよ!』
『グラフェィウスッ!?』

 彼女は。
 大きな瞳をこれ以上ないほど見開いて、僕を見てくれた。

『あ、あなたはっ……まさか、まさかっ』

 獣じゃなくなった、僕を見てくれた。
 獣だった僕は、人の姿を手に入れた。


『変異の魔術を使ったのっ!?』

 魔女であるイーレには、一目で分かったようだった。
 僕が、変異の魔術を使ったことが。

『どうしてなの? なんで、そんなことをしたのっ……』

 どうして?
 それを君が、この僕に訊くの?

『わ、分けを理由を言いなさい!』

 理由?

『……だって』

 そんなのは、決まってるじゃないか。

『だって、君がっ……イーレが僕とは種族が違うから結婚できないって、そう言うからっ!』
『……え?』
『僕のことは大好きだって、いっつも言ってくれるのにつがいにはなってくれないなんてっ……僕が獣だから結婚してくれないんでしょ!? だったら僕が人間の雄だったら結婚してくれるってことでしょ!? ねぇ、これでいいよね!?』

 君が大好きだからだ!

『な、なに言ってるのよ、グラフェィウスッ! あなたは勘違いしてるだけなのよ!? あなた、あたしと暮らしてきたでしょう? 私達、家族同然だった……だから、家族への情を異性への好意と勘違いしているだけなのよ?』

 ……勘違い?
 この気持ちが!?

『違うっ!』

 違う、違うよ!
 だって僕、君が大好きなんだ。

 死ぬんだなって思った時に、君が現れて。
 僕を、君のそのあたたかい手で触れてくれた瞬間から。

『ほら! ほら、見てよこの手を! これで、僕だってイーレを抱きしめられるんだよ!?』
『駄目よっ……あなたは同じ種族の女の子と結婚するのっ……確かにあなたの個体数は少ないみたいだけど、あたしが探してあげるからっ、だからっ、あたしなんかに……魔女なんかに求婚しちゃだめ!』

 君がっ……!
 君をっ……!

『同族の女の子なんか探さないで! 嫌だ! 僕はっ、僕はつがうのはイーレじゃなきゃ嫌なんだよ?!』

 好き。
 大好き!
 とっても、とっても大好きなんだ!!

『グラフェィウスッ…………だいたい、あなたがどうして魔術を使えッ…………まさか………シュハタル、あなたなの!?』

 イーレは自分の右の足首に尾を絡ませ、額を擦り付けている猫を見下ろし、声を荒げた。

『シュハタル、あなたがこの子に手を貸したのね!?』

 その雄猫の名はシュハタル。
 猫の姿をしているが、正体は魔女であるイーレに仕える妖魔なんだ。

『あ~? 俺、その小僧に手は貸してないぜ? このキュートな肉球を持つラブリーな手は、イーレ専用だ。貸したのは……【魔力】だ』

 なので、喋る。

『なんですって!?』
『だってよぉ~。小僧が獣の姿だから、俺達は西の森でなんか暮らさなきゃならないわけだろ? イーレの勤め先は王宮だってのによぉ~。毎日往復で4時間歩いてるんだぜ!? 小僧が人の姿になりゃ、普通の人間を怖がらせることはないから、こいつを拾う前みたいに城にある部屋に住めるだろ!? 俺、もう森での地味~な暮らしはうんざりだ』

 ぺらぺらと、よく喋る。

『シュハタルったら、お城の暮らしが気に入ってたものね……なら、言ってくれれば良かったのに。そうしたら、引越しを……』
『あのな、あの城には魔獣狩りが得意なおっかねぇ騎士達がた~っくさんいるだろうが!? この獅子の小僧が狩られちまうぜ!? ちょっと変わってますがただのでっかい猫なんで安全なんですよぉ~なんて、頭の固いあそこの騎士団の人間達には通用しないぜ? すぐばれちまうさ! まぁ、変異の魔術を使えば安心だったけどよ、肉体にかかる負担が大きいから小僧が成獣にならないと無理だったし、本人の意志が必要だったしな。で、だ! 街に戻りたいと常々考えていた俺は、小僧の今回の思いつきに乗っからせてもらったっつーか……うん、便乗?』
『便乗!? ああぁ…もう、……なんてことっ! この子は身体は成獣になったけれど、心はまだまだ子供なのに……身体だけ大人の男の人になっちゃうなんてっ……困るわっ、こんなの困るっ暗……』
 
 主の足にそのしなやかな身を絡ませるようにしながら、猫被りシュハタルはその視線を一瞬だけ僕へと動かし、言葉に出さず伝えてきた。

 ----ふふん、ほーらな? これで分かっただろーが! しょせんお前はイーレにとっちゃ“お子ちゃま”なんだよ、身の程をわきまえろってんだ<獅子王閣下>。

『…………』

 <獅子王閣下>。
 敬愛ではなく皮肉だけをこめて、シュハタルは僕をそう呼んだ。
 妖魔であるシュハタルは、僕が何者であるかを知っている。
 でも、イーレは知らない。

 イーレは7年前、西の森の崖の下で死にかけていた僕を拾ってくれた。
 僕は。
 僕は実の親に、崖から落とされたんだ。
 それは魔獣である獅子族独自の風習……【選別】だった。
 あそこに落とされたのは、僕だけだったけど。
 他の兄弟も、各地に連れて行かれ同じ目に合っているはずだ。
 生まれて3年間は親に育てられ、教育され。
 その後、子供達は【選別】にかけられる。
 高い崖から落とされ、放置され。
 それでも生き残って……成獣になれたら、<獅子王>を継げる権利を得る。
 そう。
 あくまで権利、のみ。
 魔獣の王である<獅子王>に即位するには。
 他の兄弟に、同属に勝ち。
 現獅子王を倒す必要がある。
 それはつまり。
 そのうちに、僕の事を生き残った兄弟や同族が狩りにくるということで……。
 イーレは、それを知らない。
 僕の事を、大型猫科の魔獣としか思っていない。
 イーレは優秀な魔女だけど、治療専門の魔女だから獅子族の生態に詳しくない……のではなく。
 僕が観察したところ、彼女が幼い時から共に居るらしい猫被りの妖魔シュハタルが、妖魔や魔物に関する知識を彼女から故意に遠ざけている感じがする……なぜそんなことをするのか理由は分からないけれど。

 過保護な妖魔に守られた魔女のイーレは、7年前からその容姿が変わらない。
 初めて会った時のままの、美しい少女……毛皮に覆われ、牙と爪を持つ僕とは違う、つるりとした肌とほっそりした手足を持つ少女……春の陽の光りでできたみたいな、本当に可愛い女の子なんだ。

『ねぇ、イーレ』

 僕は、イーレの前に膝をつき。

『手、触ってもいい?』

 可愛らしいピンクの爪を持つその手に、触れていいか訊いた。

『え? あ、うん……』

 イーレがぷいっと、横を向いてしまったので怒っちゃったのかなと思ったけれど。
 その顔が真っ赤だったので……怒っていないと分かり、僕はほっとした。
 彼女と7年間暮らしてきた僕は、知っている。
 この顔は、イーレが照れてる時の顔だって……でも、なんで照れてるんだろう?

『イーレ。僕はね、君が大好きなんだ』

 僕は、<獅子王>になんか興味がない。
 <獅子王>の座を争って、兄弟や同族と殺し合いをする気なんかない。

 イーレと、ずっと一緒に暮らして行くのが僕の望みだ。
 もし、兄弟や同族が僕を狩りに現れたら。
 そう伝え、帰ってもらおうと思っている…………おとなしく帰ってくれるか、分からないけどね。

『イーレ、僕と結婚してください』

 僕は、イーレの両手をとり、言った。
 もう一度、求婚した。

『……そ、その件はっ』

 そっぽを向いていたイーレだけど、僕の言葉を聞くと顔の向きを変え、その瞳に僕を写してくれた。
 彼女の瞳の中の僕は。
 ふわりとした髪に、イーレより濃い色をした肌を持つ男だった。
 人間の容姿としては、そんなに不細工ではないと思うけれど……この容姿が彼女の好みであるといいんだけど……………さっき、イーレは照れたよね?
 これって、もしかして好みの容姿の可能性大ってことかも!?

『保留にします!』

 あれ?
 保留? 

 イーレ答えは、保留……。

 無理、でも。
 駄目、でも。

『……あ』

 嫌、でも無かった。

『ありがとう、イーレ!』

 そう言った僕の頬を。

『照れたのはフル☆ンだからだ。いいかげんぱんつはけ、ぱんつ!』

 猫のシュハタルが、その長い尾で叩いた。



********************************



 聞こえてくるのは。

「……うわっ、汚ねぇなぁ! よだれ出てるじゃねぇか! イーレ。この小僧叩き起こそうぜ!?」

 猫のシュハタルの、耳障りな声。
 愛らしい外見は紛い物で、その実態は妖魔だ。
 妖魔といっても、人間の子供でも簡単に足で踏み殺せる下級なものから、一瞬で数千人の人間を殺害してまうような上級妖魔まで様々いるらしいんだけど。
 このシュハタルは……たぶん………中級妖魔かな?
 イーレが幼い頃から側にいて、まるで保護者のように彼女を守っているのらしい……見た目は可愛いけど、中身は口の悪いおじさんだ。

「いいのよ、シュハタル。この子、疲れてるのよ……このまましばらく寝かせてあげましょう」

 ああ、大好きなイーレの声。
 好き。
 うん、好き。
 だから、ずーっと聞いていたいな。

「ったく、イーレはこいつに甘いぞっ!?」

 シュハタル、うるさい。

「え? そうかしら?」
「そうだ! 甘ぃいいいい! 甘すぎるぞ!? 歯が溶けるとまで言われてるフニッカ菓子店の激甘チョコタルト以上に甘いぞ!!……むごぶっ!?」

 ……フニッカ菓子店のチョコタルト?
 今日、第二王子が明日買ってきてくれるって言ってた……僕がわざと試合に負けたから(王子にはばれてた)罰だって言って……そういうことか。

「しぃいいいーっ! 大きな声を出さないで! グラフェィウスが起きちゃうでしょう!?」

 イーレに求婚中の僕にとって、彼女の保護者気取りのこの猫は邪魔な存在だけど、イーレにとって強力な従魔がいることは良い事だ。
 イーレは生まれながらの、“天然”の魔女だから、手に入れたいと考える人間がいっぱいいる。
 造られた魔女は多くいるけれど、天然の魔女は希少価値が高い。
 さらわれたりしないよう、守る存在が必要だ。

「グラフェィウスは体はこんなに大きくなったけど、心はまだ10才なんだから……あらあら、獣の姿の時と同じね、よだれだしちゃってる……」

 そう、不本意ながら僕は10才だ。
 見た目は人間では青年という部類なので……20才ってことにしているけど。

「……この子、私の言いつけを守って一生懸命大人のように振舞って…………ふふっ、喋ると子供っぽいから、口数少なくして……そのせいで無口で愛想が無いなんて影で言われちゃって……この子、すごく頑張ってるの。疲れて当然だわ……」

 僕達は、あれから西の森を出て王宮にある宿舎に住むことになった。
 イーレはこの国の王に請われ、王宮薬師をしている。
 僕は、イーレが個人的に雇った専属の護衛ということになった。
 僕としては夫や婚約者が恋人とかが良かったけれど、イーレは「絶対に駄目」と言った。
 イーレは理由を教えてくれなかったから、僕はこっそりシュハタルに尋ねた。
 シュハタルは口は悪いけど、なんだかんだ言っても面倒見の良いおじさん妖魔だから教えれくれた。
 魔女の『男』というのは、世間であまり良く思われない立場だから……なんだと、僕に教えてくれた。
 なんで“世間であまり良く思われない立場”なのかは、シュハタルは教えてくれなかった。

 ----獅子のお前は世間とか気にならないけれど、イーレは気にするんだ。イーレを悲しませたくねぇなら、これ以上無茶言うなよ?

 僕は、イーレを悲しませたくない。
 だから、頷くしかなかった。
 せめて、家族とか親戚とか……とも思ったけれど、すぐに諦めた。
    鏡で見た人の姿の僕は、髪も瞳も肌の色もイーレとは全く違った。
 血がつながって無いのは、一目で分かってしまう。
 家族だなんて、通用しない。

 僕は、イーレの護衛に雇われてる異国人の傭兵ってことになったけど。 
 剣なんか獣の時は触ったこともなかったし、体術もできなかった。
 だから、毎日シュハタルに習っている。
 なかなか筋が良いって、シュハタルも褒めてくれた。
 獅子の僕は、もともと運動能力も動体視力も人間より優れてるから体を動かすことは合ってるみたいだ……勉強はちょっと苦手で、三桁の足し算はまだあんまりできないし、三桁の引き算はぜんぜんできない。
 護衛のふりをするのに算数が必要じゃなくて、ほんとうに良かった。
 姿を変えても失わなかった身体能力おかげで城の騎士達を相手にしても、武術の初心者だっていうのがばれないでいられてる。

 この僕に剣を教えれくれる時も、シュハタルは猫の姿だ。
 訓練の時、シュハタルは二本足で立ち、人間の成人男性並の大きさに変化する。
 その姿はでっかい猫っていうか、絵本に出てくる化け猫みたいだ……あの肉球の手で剣を握るのはいったいどうやっているのだろうという疑問はあったが、僕にとってどうでも良いので質問をしたことはない。

「はぁ~?……この小僧が頑張ってる? そうかなぁ?」

 ここへ僕達が移り住み、半年が経っていた。
 森での暮らしでは他の人間と係わることがなかったので、人の姿でのここでの暮らしは刺激的であり興味深いことだらけだった。
 いちばんびっくりしたのは、侍女さん達から僕が“大人のお誘いを”されたことだけど……遊びでいいのよって言われて、本当にびっくりした。
 びっくりし過ぎて、イーレ以外の女の人はちょっと怖くなったのは、シュハタルには秘密だ。

「もう、シュハタルったら! 一緒に窓から見たのに。この子、頑張ってたでしょう!? 第二王子に誘われて、騎士団の人達と剣の試合をしてたわね。……騎士の人達に負けてなかったわね! でも、さすがに団長さんとの試合には負けちゃったけど……あの試合はおしかったわよね!? うん、とっても頑張ってたわ!」

 ああ、団長とのあれは。
 わざと、負けたんだ。
 王子にはばれちゃったけど(だから、罰にフニッカ菓子店のチョコタルト)……団長さんも多分、気がついてる(顔、怖くなってた)……シュハタルももちろん気づいてる……。
 イーレが仕事場の薬師の塔から見ているのを知っていたから、団長との試合にはわざと負けた。
 だってね、全部勝つよりちょっとは負けたほうが、イーレは僕に優しくしてくれるから。
 負けたことを報告すると、思っていた通りイーレは僕を優しく撫でてくれた。
 僕は、とても満足した。
 人の姿になってから、獣の姿の時より撫でてもらえなくなってしまったから、僕はイーレに撫でてもらえるように頑張ってるんだ。

「……まぁ、たしかに頑張ってるって言えば、頑張ってるのなぁ…………なぁ、イーレ。小僧の求婚の件はどうすんだよ? 嫌なら、いつだって俺に言えよ? こいつなんて、このシュハタル様がいつだって片付けてやるからな?」

 そうだろうな、と思う。
 妖魔のシュハタルは、“今の”僕よりずっと強い。
 獅子は魔獣としては最上位だけど、成獣になったばかりの僕はまだまだだから。

「求婚……ふふ、あたしなんか、三百歳のおばあちゃんなのにね…………大丈夫よ。この子があたしを好きなのは今だけ、そのうち気づく……魔女なんか、愛せないって………愛する価値なんか、無いんだって………だから、だから、今だけ……」

 ……うん、確かに甘いね、イーレ。
 シュハタルの言うように、君は甘いよ?
 僕、もう起きてるから聞こえてるんだよ?

「この子がこうして側にいてくれるのは今だけ……もうすぐ、終わるのよ。同族の女の子に出会ったら、私なんか見向きもしなくなるに決まってる……」
「イーレ……」

 終わる?
 まさか!

 僕のこの想いが今だけじゃないと、終わりなどないと。
 絶対に、分からせてみせるから。
 覚悟、しておいてね?

 僕の狩りは、まだ始まったばかりだ。
 絶対に、君を捕らえてみせる。

 僕はこの牙を、爪を隠して君に近づき。
 君を、捕らえる。

 大好きな大好きな、僕の魔女。

「……おやすみなさい、グラフェィウス」

 僕に与えられる、大好きな君の声と瞼への接吻。

 愛しいイーレ。
 今も、先も。
 ずっとずっと。

 こうして君の側で、眠らせてね?



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